概要
ハワイアンカジュアルレストラン「Eggs 'n Things」を運営するEggs 'n Things JAPAN 株式会社は、デジタル技術の積極活用による新たな顧客体験の創出に挑んでいる。その代表例の1 つが、来店客の座る位置をセンサー技術を用いてリアルタイムに可視化する「カスタマートラッキングシステム」。このシステムでは、顧客が店内のどの席に座ってもセンサーが検出した位置を店舗スタッフがアプリケーション上で確認でき、出来立ての料理を迷うことなく客席へ届けることができる。
また、どの客が何分待っているかも可視化できるため、料理提供が前後した際に声をかけるなどすることで、不公平感の解消にもつながる他、スムーズで快適な顧客体験を実現している。
そのためには、注文情報と座席の位置情報をセンサーで検知するための専用タグとその情報を受信するロケーター、そしてリアルタイム処理を行うための高機能なサーバーが必要となり、そのサーバー基盤として選ばれたのがLenovo の「ThinkSystem SE350」だった。
課題
狭い飲食店舗のバックヤードに、大量のセンサーデータを安定的に高速処理できるエッジサーバーを設置。より良い顧客体験をDXで実現し、店舗オペレーションを最適化する必要がありました。
ソリューション
小型かつ堅牢でエッジ・コンピューティング に特化した高い処理パフォーマンスを実現する「Lenovo ThinkSystem SE350」エッジサーバーを採用しました。
導入効果
飲食店舗の狭いバックヤードにThinkSystem SE350を設置。限られた条件下でもシステムの安定稼働を実現し、飲食ビジネスにおけるDXの推進に貢献し、顧客満足度の向上に大きく貢献しています。
導入について
外食産業のデジタル化・省力化と顧客満足度向上をいかに両立させるか?
日本におけるパンケーキブームの火付け役として多くのファンを持つハワイアンカジュアルレストラン「Eggs 'n Things」。1974年にハワイで誕生したこのEggs 'n Thingsを日本に紹介し、2010年に国内第1号店を開いたのが、Eggs 'n Things JAPAN株式会社の代表取締役を務める松田公太氏だ。
タリーズコーヒージャパンの創業者としても知られ、現在はEggs 'n Things JAPANの親会社であるクージュー株式会社のCEOとしてもさまざまな事業を手掛ける同氏は、「CAS(Customer Along Service)」というコンセプトを掲げ、外食産業のデジタルトランスフォーメーション(DX)に取り組んでいる。
「外食産業では近年、人件費や家賃、原材料費の高騰、消費増税といった逆風にさらされ、利益率が極端に低下しています。こうした状況を乗り越えていくためには、デジタル技術の活用による生産性向上が不可欠です。長らくIT活用に立ち遅れていた状況を打破し、ITによる革新をもたらして業界全体を底上げしていきたいと考え、その実現に向けたソリューションを模索してきました」(松田氏)。
同氏によれば、外食産業におけるDX化は、他業界のように単にITを導入して業務効率を上げるだけでは不十分だという。
「効率だけを追求していくと、例えばディスプレイに番号を表示してお客様に料理を取りに来てもらうような完全セルフサービスの形態に行き着きがちです。確かにオペレーションの効率化やコスト削減の効果はありますが、特にEggs 'n Thingsのように客単価が1,000円を超えるような店舗の場合、完全セルフサービス形式では明らかに顧客満足度は低下します」(松田氏)。
しかし従来のような人手によるフルサービスではコストが掛かりすぎ、事業が立ち行かなくなってしまう。「セルフサービスでありながら、フルサービス並みの満足度をお客様に感じていたくには、どうすればいいのか?」。この問いを突き詰めていった末に辿り着いたのが、CASのコンセプトだった。
システム化によって業務のデジタル化や省力化を進めつつも、単に店側の都合を顧客に押し付けるのではなく、まさに顧客に寄り添うサービス(Customer Along Service)をお客様とともに作り上げていこうというのがCASの基本コンセプトだという。
来店客の着座位置をリアルタイムに可視化する「カスタマートラッキングシステム」
CASは単なるコンセプトや掛け声に留まるものではなく、既に具体的なソリューションの形で実現している。
例えば、オンラインで時間を指定してテイクアウトの注文や決済を行うことができる「事前注文システム」、顧客が入店後、テーブル上にあるQRコードからメニューを読み取りオンライン上で注文・決済できる「テーブルオーダーシステム」、来店した顧客にレジでコイン状のデバイスを渡すことで、顧客がどのテーブルに座っているかをタブレット端末上で把握できる「カスタマートラッキングシステム」などを独自に開発し、既に実際の店舗での運用を始めている。
特にカスタマートラッキングシステムは、松田氏が考える「理想の飲食店」を実現する上で重要な役割を果たすという。
「お客様が気軽にふらっと店内に立ち寄って、ふらっと出ていくような、お客様に自由を感じていただける店舗作りを常々意識してきました。そのため、店内で座る席の選択もお客様の自由に委ねるのが理想的です。しかしそうなると店舗側がお客様の席の位置をなかなか把握できないため、スムーズな料理提供が難しくなってきます。かといって、セルフサービス方式でお客様に注文した料理を取りに来ていただくと、お客様の満足度は上がりません」(松田氏)。
このジレンマを克服するために考え出したのが、カスタマートラッキングシステムだった。具体的には、レジで顧客が料理を注文して支払いを済ませた際、小型のデバイス「Quuppaタグ」が手渡される。このデバイスの位置は、店内に設置された「Quuppaロケーター」が自動的に検知し、その位置情報をリアルタイムに「位置演算サーバー」に送信する。このサーバーは、デバイスから発信される位置情報から顧客が店内のどのテーブルに着席しているかを識別し、タブレット端末上にその位置を表示する。従業員は表示された情報を見て、出来上がった料理を顧客が座るテーブルへ迷うことなく持って行くことができる。
タグとロケーターは、主に倉庫や工場などで用いられる高精度位置測位システムで使われるもので、これらの機器が取得した位置情報をリアルタイムに処理するLenovoの「ThinkSystem SE350」サーバーとともに株式会社サトーが機器の提供とインテグレーションを担当した。同社 B2B2Cビジネス推進部 課長 平田和也氏によれば、「カスタマートラッキングシステムを実現する上では、ThinkSystem SE350の特性が大いに役立った」という。
ThinkSystem SE350は、店舗や倉庫、工場などの現場に設置するエッジ・コンピューティング向けに専用設計されたサーバー製品。ノートPCより少し大きい程度の軽量コンパクトな筐体は設置場所を選ばず、狭い場所でも容易に設置できるだけでなく、高温や振動、埃などへの耐性にも優れる。また有線接続だけでなく、IoT機器との通信を想定したWi-FiおよびLTE無線接続機能もデフォルトで備える。さらには高性能GPUも搭載し、AIエンジンの学習処理まで可能になっている。
今回のカスタマートラッキングシステムではサーバーを店舗内に設置する必要があり、サーバールームのような専用スペースを確保できない。その点、ThinkSystem SE350なら店舗の狭いバックヤードでも問題なく設置でき、かつ安定的に運用できると判断した。また無線通信機能をデフォルトで備えるため、システム環境に合わせた柔軟な対応も可能だと考えられた。
また、ネットワーク経由でリモートからサーバーの稼働状況やセキュリティ対策も行えるため、設置する店舗が増えた場合でも保守が一元的に管理できる点もメリットが大きい。
店舗内の狭いバックヤードでも安定的に稼働
こうして完成したカスタマートラッキングシステムは、2020年6月に新規オープンした「Eggs 'n Things Coffee 御殿場プレミアム・アウトレット店」へ導入された。ThinkSystem SE350は同店のバックヤードに設置されたが、極めてスペースが狭く、かつデータセンター用にサーバー稼働に最適化した環境ではないにもかかわらず、極めて安定した稼働を実現している。
その後、カスタマートラッキングシステムは安定して稼働を続けており、導入から現在に至るまで一度も顧客のテーブルを間違えることなく正確に動作し続けているという。顧客の評判も上々で、「自由にテーブルを選んだのに、なぜ迷わず料理を運べるのか?」と驚かれることも多いという。こうしたサプライズも含め、今回のシステム導入では顧客満足度の大幅な向上を実現でき、ひいてはCASの実現へと大きな一歩を踏み出せたと松田氏は高く評価する。
今後はCASの成果を自社の他の店舗への展開を検討し、さらに同じ飲食業を営む他社にも積極的に提供し、外食産業全体のレベルアップに寄与していきたいという松田氏。完全非接触・自立対話が可能な「AIアバターレジ」も店舗へ導入することを発表している。
「効率化やコスト削減のためのIT化ではなく、収集するデータの量や種類をさらに増やすことで、ビッグデータの活用からさらにユニークな顧客体験をスピード感を持って実現していきたいですね」と松田氏の眼には先を見据えた構想が秘められている。
パートナーの声:株式会社サトー 平田氏
エッジ・コンピューティング向けのThinkSystem SE350は店舗での設置・運用に最適
カスタマートラッキングシステムの構築・運用においてThinkSystem SE350とLenovoが果たした役割について、平田氏は以下のように述べる。
「店舗などに導入するエッジ コンピューティング用のサーバーは、設置スペースや専用の環境、設備を確保できないことが多く、リモートでの保守が前提になるので信頼性、堅牢性、セキュリティ面などで高い要件が求められます。その点ThinkSystem SE350はサイズがコンパクトなため設置場所を選ばず、かつ無線通信機能を備えているため、今回開発したカスタマートラッキングシステムのようにセンサーデバイスと無線通信を行うようなシステムには最適なサーバー製品だと思います」。
「Lenovoとは今回の案件で初めて、ThinkSystem SE350を中心とした協業を行いましたが、それ以外にも非常に幅広い製品ラインナップがあり、様々な業種、業務に対応できる製品をそろえているのが魅力です。
また、性能や信頼性、サポート面では定評があります。サトーは主に店舗や倉庫などにシステムを収めることが多く、さらにビジネス連携の範囲を広げていくことで、両社にとってよりメリットの大きい関係を築き上げていきたいですね。
またサトーは今後、グローバルにビジネスを展開していくため、海外でも日本と同様の製品とサービスが受けられる点も多く安心感につながっています。Lenovoとの協業をグローバル市場で進めていければと考えています」。
「カスタマートラッキングシステム」は、「理想の飲食店」を実現する上で重要な役割を果たすと考えています。
EGGS 'N THINGS JAPAN株式会社 代表取締役 元参議院議員 タリーズコーヒージャパン創業者 松田公太 氏