目 次
NPUとは
NPUとはNeural Processing Unitの頭文字を取ったもので、AI処理に特化したプロセッサーです。従来のCPUやGPUとは異なり、機械学習やディープラーニングのタスクを高速かつ効率的に処理することができます。NPUについて詳しく見ていきましょう。
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AI処理に特化したプロセッサー
NPUは、並列処理を得意とするAI処理に特化したプロセッサーのことです。ニューラルネットワークの推論タスクに強みを持ち、CPUやGPUに比べ、AI関連のタスクを効率良くこなすために設計されています。並列処理能力に優れ、、AI処理や機械学習において高速かつ低消費電力での稼働が可能。顔認識や音声認識など、リアルタイムのAIタスクにおいて高いパフォーマンスを発揮します。
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パソコンよりもスマホの方が
先に搭載されていたAI PCが注目され始めたのが2023年頃なので、NPUもつい最近登場したものだと考えている人もいるかもしれません。しかし、NPUは実は以前から一部のスマホに搭載されており、音声入力や画像認識などの処理に活用されてきました。Apppleでは2017年のA11 Bionicを搭載したiPhone XやiPhone 8からNPUを搭載しており、Androidでも少し遅れてNPUを搭載したモデルが登場しています。
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現状は一部のノートパソコンのみに搭載
AIパソコンの認知度は高まってきてはいるものの、2024年10月時点ではまだ全てのパソコンにNPUが搭載されているわけではありません。NPUが搭載されているAI PCであればNPUを使ってAI処理を行いますが、一般的なパソコンでAIタスクをこなす場合、NPUではなくCPUが処理を行います。現状はまだパソコンにおけるAIの利用シーンは限定的ですが、ビジネスやゲームなどさまざまな用途でNPUの需要は高まってきています。今後はNPUを搭載したパソコンが一般的になってくるかもしれません。
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NPUの性能を表す指標は「TOPS」
NPUの性能を示す指標の一つに「TOPS」というものがあります。TOPSは「Tera Operations Per Second」の略称で、1秒間に何兆回の演算ができるかを示しています。TOPSの数値が高いほど、より多くのデータを迅速に処理できるため、AIタスクの処理能力が高いといえるでしょう。ただし、パソコンの性能はTOPSだけで判断することはできません。全体的な性能はCPUやメモリーなど複合的な要素も加味して判断する必要があります。
NPUと他のプロセッサーの違い
NPUは、CPUやGPUとは異なる用途に特化しています。特定の用途や処理において最適なプロセッサーは変わってくるため、システムの目的やタスクに応じて使い分けることが大切です。それぞれの役割や特性の違いについて解説します。
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NPUとCPUの違い
CPUは汎用的な処理を行うプロセッサーで、コンピューター全体の制御や命令の実行を担う中枢としての役割を担っています。さまざまなタスクを処理できる汎用性があるCPUに対し、NPUは特定のAIタスクに最適化されています。並列処理性能がNPUの強みでAIの推論作業を迅速に処理し、顔認識や音声認識といったリアルタイムの機能で活躍します。
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NPUとGPUの違い
GPUは数千のコアを持ち、グラフィックスなどの並列処理に特化しています。元々、グラフィックレンダリングや画像処理に特化したプロセッサーですが、現在では並列処理が必要な科学計算やAIの学習処理にも活用されるようになりました。NPUもGPUと同じく並列処理を得意としますが、NPUはAIタスクの最適化によりさらに効率的に処理を行うことが可能。AI推論のような複雑な演算処理で力を発揮できるのがNPUの強みです。
NPU搭載のAI PCとは
NPUを搭載したAI PCは、AI処理を効率的に行うため、ビジネス用途からクリエイティブな作業まで、さまざまなシーンでのパフォーマンスが向上します。そんなAI PCの要件はメーカーによって異なる場合もありますが、共通している要件には次のようなものがあります。 ● CPUとGPUに加えNPUを搭載している
● Copilot in Windowsに対応している
● Copilotキーを搭載している それぞれの要件について見ていきましょう。
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NPUを搭載
NPUを搭載したパソコンはAI推論の処理能力が高く、従来のパソコンよりも効率的なAI処理が可能となります。NPUによってAIタスクが高速化されるため、リアルタイムでの推論や音声アシスタントなどがより快適に使えるようになるのが魅力です。また、効率的な処理を行うことによって消費電力を抑え、バッテリー駆動のモバイルデバイスでは長時間の駆動が可能となります。
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Copilot in Windowsに対応
NPUを搭載したAI PCは、WindowsのAI機能である「Copilot」に対応しています。Copilotとは、AIを活用してユーザーの操作を支援し、自然言語によるインターフェースで多様なタスクを簡単に処理できるAIアシスタントのこと。GPT-4ベースのAI技術を利用しており、チャットベースのインターフェースを通じてユーザーが自然言語で質問したり指示を出したりできるため、専門的な知識がなくても高度な操作ができるのが魅力です。
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Copilotキーを搭載
Copilotキーとは、Windows 11のキーボードに追加されているキーのことです。このキーを押すことで、すぐにWindows Copilotを呼び出し、AIアシスタントを利用してシステム操作や生産性ツールの支援、質問への回答などが可能となります。Copilotキーの存在により、従来のショートカット操作よりも簡単にAIアシスタントにアクセスできるようになりました。
NPU搭載のAI PCを使用するメリット
NPUを搭載したAI PCを使用することで、AI処理の高速化やバッテリー駆動時間の向上、またセキュリティ面での安全性が高まるなどさまざまなメリットがあります。ここでは、AI PCにどのようなメリットがあるのか解説します。
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AI処理の高速化を実現
NPUが搭載されたAI PCは、AIタスクの処理速度を大幅に向上させます。特に、画像認識、音声解析、自然言語処理などリアルタイムの推論においてその効果が顕著です。リアルタイムで大量のデータを処理する必要がある場面でNPUの恩恵が発揮され、AIを利用したアプリケーション全体のパフォーマンスが向上し、作業効率を大幅にアップさせることができるでしょう。
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省電力稼働が可能
AI PCに搭載されているNPUは、低精度演算の利用によりCPUやGPUと比べて少ない電力でAI処理を行うことができます。長時間の使用でもバッテリーを節約できるため、ノートパソコンによる長時間作業が可能になりました。また、消費電力が少ないことから、エネルギー効率が高く環境にも優しいといったメリットがあります。
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セキュリティ面でのリスクを軽減できる
AI PCはセキュリティ面でも優れた特性を持っています。端末にNPUを搭載しているため、AI処理を行う際にクラウドにデータを送信する必要がありません。ローカルで処理を実行できるため、個人情報や機密データの漏えいリスクを低減することができます。特に企業や個人情報を扱う業界にとって、セキュリティの強化は今後のAI活用において欠かせない重要な要素でしょう。
NPU搭載の主なSoCメーカー
NPUを搭載するSoCは、主に大手半導体メーカーによって開発されています。これらのメーカーは、モバイル機器やパソコン向けにNPUを採用し、AI処理の効率を飛躍的に向上させています。NPU搭載のSoCを提供する主要なメーカーを見ていきましょう。
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Qualcomm
Qualcommはアメリカに本社を置く、半導体製造や通信技術関連の設計開発などを行っている企業です。SnapdragonシリーズでNPUを採用しており、以前からAndroid向けスマホ用のチップセットとしてSnapdragonを提供してきました。2024年にはNPU性能が45TOPSのSoC「Snapdragon X Elite/Plus」を発表し、IntelやAMDに先駆けてCopilot+PCとしてQualcomm製のSoCを搭載したパソコンが販売されました。
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Apple
Appleはアメリカに本社を置く企業で、iPhoneやiPad、Macなどを提供しています。2020年に発表したM1や、その後継となるM2チップにNPUを統合し、AI処理能力を強化してきました。iPhoneやiPadでは、MシリーズのNeural Engineを活用したAIアプリがスムーズに動作し、リアルタイムの画像認識や高度なカメラ機能を実現。2024年5月には次世代SoC「M4」を発表し、パソコンだけでなくiPadにも搭載されるSoCとして注目を集めています。
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Intel
Intelはアメリカに本社を置く半導体メーカーです。AI処理の需要に対応するため、最新のプロセッサーにNPUを搭載しています。2023年12月にはNPUを搭載したプロセッサーである「Core Ultra」を発表し、画像認識や翻訳などリアルタイムなAI処理を実現しました。2024年5月にはフラッグシップとなるLunar Lakeを発表し、2024年11月以降にはIntel製のSoCと搭載したパソコンもCopilot+ PCとして認定されていく見込みです。
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AMD
AMDはアメリカに本社を置く半導体メーカーです。2023年1月には一部のモデルを除くRyzen 7040シリーズにNPUを搭載し、AI処理を加速させています。AMDはCPUだけでなくRadeonシリーズなどのグラボも提供しており、Ryzen 7000シリーズはAI処理能力の向上と同時に、ゲームやクリエイティブ作業にも最適化されました。2024年6月に発表したRyzen AI 300はNPU単体で55TOPSの性能を誇り、今後はAMD製のSoCを搭載したパソコンもCopilot+PCとして認定されていく見込みです。
Core UltraはNPU搭載のIntel製プロセッサー
IntelのCore Ultraプロセッサーは、CPUを含む複数の機能を統合した「SoC(System on a Chip)」と呼ばれる半導体製品です。NPUを搭載したことにより、AI処理能力が飛躍的に向上しました。2023年12月に発表されたMeteor Lakeと、その翌年2024年9月に発表されたLunar Lakeについて解説していきます。
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Meteor Lake(2023年12月発表)
Meteor Lakeは、Intelが2023年12月に発表したプロセッサー「Core Ultra」の開発コードネームです。このプロセッサーは新たにNPUを搭載し、AI処理能力を大幅に向上させています。2024年1月以降はCore Ultraを搭載したパソコンも登場し、AI PCの始まりとして多くの注目を集めました。Meteor Lakeの特徴について紹介します。
● Intel 4プロセスを採用
Intel 4プロセスと呼ばれる最新の製造プロセスを採用しています。これはEUV(極端紫外線)露光を採用したプロセス技術で、高密度なトランジスタ配置が特徴です。このプロセスによりパフォーマンスが向上し、エネルギー効率も大幅に改善され従来のモデルから大きな進化を遂げました。
● 3Dパフォーマンスハイブリッドアーキテクチャ
3Dパフォーマンスハイブリッドアーキテクチャは、近年注目されているコンピューターアーキテクチャの技術の一つで、特にプロセッサーの設計において使われる概念です。高性能コアと省電力コアという異なる種類のコアを組み合わせ、性能と効率性を最大限に引き出すことを目的としています。3D積層技術を活用することによって処理を最適化し、タスクに応じた最適な処理を実現しました。
● Intel Arc GPU
Intel Arc GPUは、Intelが開発した独立型のグラフィックカードブランドです。ゲームやクリエイティブ、AI処理などにおけるグラフィック性能を大幅に向上させることを目的としており、最新のゲームやクリエイティブ作業で高いフレームレートと画質を実現します。映像の処理が高速化され描画性能が向上したことによって、よりリアルなビジュアル体験が可能となっています。
● NPUを搭載しAI処理能力が向上
Core Ultraでは新たにNPUが搭載されたことにより、AIや機械学習関連の処理を高速化し、他のプロセッサリソースを節約することができるようになりました。これによりAI処理能力だけでなく、パソコン全体としてのパフォーマンスも向上します。また、NPUはCPUやGPUよりも効率的なAI処理が可能なため、バッテリー消費を抑えながらAI機能を活用することができるようになりました。
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Lunar Lake(2024年9月発表)
Lunar Lakeは次世代のPC向けプロセッサーとして、革新的な技術が複数搭載されています。従来のアーキテクチャに対する性能向上を目指し、効率性とAI支援の強化が特徴です。それぞれの特徴について詳しく見ていきましょう。
● DRAMをパッケージ上に実装
Lunar Lakeでは、DRAMがパッケージ内に実装されています。従来の設計ではDRAMはメインボード上に配置されることが一般的でしたが、DRAMを統合することによりデータ転送速度や応答性が大幅に向上ました。さらに、エネルギー効率の向上も期待でき、長時間のバッテリー駆動も期待できます。ただし、メモリーの増設や換装ができないという点には注意が必要です。今後AIアプリが充実してくる中、パッケージ内のDRAMで十分に対応できるかどうかはやや不安が残ります。
● Copilot+ PCの基準を満たすNPUを搭載
Lunar LakeはAI機能の強化を目指し、Copilot+ PCの要件を満たす高性能なNPUを搭載しています。NPU単体で最大48TOPSの性能を誇り、AIアシスタントを活用した効率的な作業が実現します。CPUやGPUとの組み合わせ次第ではパソコン全体で最大120TOPS以上の性能も期待されており、ユーザーの生産性が飛躍的に向上することが見込まれます。
● Hyper-Threadingを廃止
Lunar Lakeでは、これまで多くのプロセッサーに搭載されていたHyper-Threading機能を廃止しています。Hyper-Threadingとは、1つの物理コアを仮想的に2つの論理コアとして動作させることで、並列処理能力を向上させる技術です。この廃止によりプロセッサーの動作がシンプルになり、より高効率で安定した動作が可能となりました。
● コアの性能が向上
Lunar Lakeでは高性能コア(P-core)と高効率コア(E-core)の異なる種類のコアが搭載されており、両者の性能は大幅に向上しています。これによりグラフィック性能の強化や高負荷作業でのパフォーマンス向上が実現し、さまざまな用途で高いパフォーマンスを得られるようになりました。最新のゲームや映像編集など、グラフィック処理を必要とする作業においても優れた応答性を発揮します。
NPU搭載のおすすめノートパソコン
ここではLenovoの製品の中から、NPUを搭載しているおすすめのノートパソコンを3点紹介します。
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Lenovo IdeaPad Pro 5i Gen 9
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ThinkPad X1 Carbon Gen 12
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Lenovo Yoga Slim 7x Gen 9
まとめ
2023年頃からAI PCに関するニュースや話題が増えてきており、各メーカーが提供するNPUの性能にも注目が集まっています。Core UltraはIntelが提供するMPUで、同社からは2023年12月に初めてNPUを統合したプロセッサーとして、開発コードネーム「Meteor Lake」が発表されました。技術の進歩は凄まじく、翌年2024年9月にはより高性能なLunar Lakeが発表されています。まだAI対応のアプリはさほど多くなく、NPUを搭載したパソコンも限定的ではありますが、今後AIの活用が一般的になってくることが考えられます。今のうちからAIに触れ、少しずつ慣れていくことをおすすめします。