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Core Ultraとは
Core Ultraは、Intelが提供している新しいプロセッサーです。従来のCore iシリーズとは異なり、NPUを搭載するなどAI処理能力の向上に特化した設計が施されています。
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2023年12月登場の新プロセッサー
Core Ultraは、2023年12月に発表された最新のIntelプロセッサーで、AI技術を取り入れた設計が大きな特徴となっています。Pコア、Eコア、LPEコアと3種類のコアを搭載し、従来よりも優れたAI処理とグラフィックス性能を実現。この時発表されたCore Ultraの開発コードネームはMeteor Lakeで、シリーズ1と呼ばれることもあります。この約1年後には、改良を加えたLunar Lakeが発表されました。
Core Ultraの特徴
Core Ultraの特徴として、NPU搭載、Intel Arc GPUの統合、3種類のコア構成が挙げられます。これらの特徴により、AIとグラフィックスの両方で優れたパフォーマンスを発揮します。それぞれの特徴について詳しく見ていきましょう。
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NPUを搭載している
NPUとはNeural network Processing Unitsの略称で、AI処理に特化したプロセッサーのことをいいます。IntelではCore UltraからNPUが搭載されるようになり、高速なAI処理や低消費電力での稼働が可能となりました。従来のプロセッサーと比べた時のCore Ultraの特徴について順番に解説します。
● 高速なAI処理が可能
Core Ultraでは新たにNPUが搭載されたことで、高速なAI処理が可能となりました。このNPUは、CPUの負荷を軽減し、効率的にAI処理を行うための専用チップです。NPUの搭載によりAI処理のスピードが飛躍的に向上したため、インターネットに接続せずとも画像認識や音声認識といったリアルタイムなAI機能をローカルで高速に処理できる点が強みです。
● CPUの負荷を軽減できる
NPUが搭載されていない従来のパソコンでAI処理を行う場合、CPUがその処理を担ってきました。CPUは演算やシステムの制御などを担う汎用性の高いプロセッサーですが、グラフィックやAIのような並列処理はあまり得意ではありません。CPUのリソースをAI処理に当ててしまうとパソコン全体のパフォーマンスが低下してしまうといった問題がありましたが、NPUが搭載されたことによりCPUに負荷をかけずにAI処理を行うことができるようになりました。
● 低消費電力での駆動が可能
NPUは効率的なAI処理が可能なため、CPUやGPUよりも低消費電力でAIタスクを処理することができます。CPUは精度の高い浮動小数点演算を利用しますが、NPUは低精度演算を利用してAI推論を行います。演算の精度はAI処理で出力される結果にほとんど影響を与えないと言われており、ノートパソコンのようなモバイルデバイスにおいては長時間のバッテリー駆動が可能となりました。
● ローカルでのAI処理が可能
従来はAIの推論処理を行う場合、クラウドサーバーにデータを送信して出力結果を得るという方法が一般的でした。しかし、NPUが搭載されたことによりローカルでのAI処理が可能となりました。インターネットを介してデータを送信する必要がないため、ネットワークが不安定な場合でも影響を受けず、個人情報や機密情報の漏えいといったリスクを低減することができるといった特徴があります。
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Intel Arc GPUを搭載している
Core Ultraには高性能なIntel Arc GPUが搭載されています。Intel Arc GPUは、Intelが開発した独立型グラフィックカードブランドで、CPUとGPU統合されたことによりシームレスな連携が可能となり、全体的なパフォーマンスと電力効率が向上しました。Intel Arc GPU搭載によって使用可能となったソフトについて紹介します。
● Intel Arc Control
Intel Arc Controlは、Intel Arc GPUを搭載したデバイス向けの専用ソフトウエアです。ユーザーがGPUの温度、使用率、フレームレートなどといったパフォーマンスをリアルタイムで確認し、最適化することができます。また、ゲームプレイの録画や配信を簡単に行えるため、ゲーマーや配信者にとっても便利なプラットフォームとなっています。
● クリエーター・スタジオ
クリエーター・スタジオは、主にコンテンツ制作者向けに設計されたツールやソフトウエア群を指します。動画編集や画像処理、音声制作、グラフィックスデザインなどがスムーズに行えるように最適化されており、クリエイターが高品質なコンテンツを制作するのをサポートします。
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3種類のコアを搭載している
Core Ultraでは、Pコア、Eコア、LPEコアの3種類のコアを搭載しています。新たにAI処理に特化したLPEコアが搭載されたことにより、効率的なAI処理が可能となりました。従来からのハイブリッド・アーキテクチャは継続採用されており、高速なマルチスレッド・パフォーマンスを提供します。それぞれのコアについて詳しく見ていきましょう。
● Pコア
PコアはPerformanceコアの略称で、単一スレッド性能や高い処理能力が求められる処理を担当する高性能なコアです。消費電力を気にせず、高いパフォーマンスを発揮できるよう設計されています。ゲームや動画編集、レンダリングなど高い処理能力が求められるタスクに最適で、高いクロック速度と計算能力により処理速度が速く、大量のデータ処理を得意とするのがPコアの特徴です。
● Eコア
EコアはEfficiencyコアの略称で、高効率コアと呼ばれることもあります。省電力性を重視したコアで、軽いタスクを効率的に処理するのが得意。バックグラウンドタスクや軽負荷の作業、マルチスレッド処理に最適で、バッテリー駆動のデバイスで効率的な動作を可能としています。低消費電力で動作しながらマルチタスクの処理能力を向上させることができるため、バッテリー駆動のノートパソコンでは特に省電力効果の恩恵が大きくなります。
● LPEコア
LPEコアはLow-Power Efficiencyコアの略称で、非常に低電力で動作することができます。極めて軽いタスクに特化しており、最小限のリソースを使ってタスクを処理するのがLPEコアの特徴。効率的な電力管理を行うことができるため、バッテリー駆動のデバイスにおいて長時間の動作を可能にするだけでなく、バッテリーそのものの寿命を延ばすのにも役立ちます。
Core Ultraを搭載したAI PCを使うメリット
Core Ultraを搭載したAI PCは、AI処理性能が向上し、低消費電力での稼働が可能です。さらに、セキュリティリスクを低減する仕組みが備わっており、安心して利用することができます。Core Ultra搭載パソコンのメリットについて改めて確認しましょう。
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AI処理性能が向上する
Core Ultra搭載PCは、専用のNPUと強力なIntel Arc GPUの組み合わせにより、AI処理性能が向上しています。これにより、複雑なデータ解析や画像認識などを迅速に処理することができるようになりました。例えば、AIモデルのトレーニングや推論処理など複雑な計算が必要なタスクでも、従来より短い時間で結果を得ることができます。また、ゲームやクリエイティブな作業においても、高速なAI処理により、リアルタイムでの効果適用やレンダリングが可能です。
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バッテリーによる駆動時間が向上
Core Ultraを搭載したパソコンは、低消費電力で稼働する設計となっています。NPUやEコアなどの専用ユニットが電力効率を高め、エネルギー消費を抑えます。外出先でプレゼンテーションやリモートワークを行う際でも、充電なしで長時間のバッテリー駆動が可能です。また、低消費電力設計により熱の発生が抑えられ、PC本体が熱くなることが少ないため快適に使用できるでしょう。
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セキュリティリスクを低減できる
Core Ultra搭載のパソコンはセキュリティ機能が強化されており、データやプライバシーの確保がしやすくなっています。NPUを使ってローカルでAI処理を行えるため、データをクラウドに送信することなくパソコン内で完結できる点が魅力です。これにより、大切な情報が外部に漏れるリスクが大幅に減少します。特に個人情報や機密情報を扱う企業にとっては大きなメリットとなるでしょう。
2024年5月に新しいAI PC「Copilot+ PC」が登場
2024年5月にはMicrosoftが新しいAI PCのブランド「Copilot+ PC」を発表しました。Copilot+ PCはAI機能を最大限に活用し、次世代のPC体験を提供します。
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Copilot+ PCの要件
Copilot+ PCには次世代のAIアシスタント機能「Copilot」が標準搭載され、音声認識や自然言語処理が向上しています。高速な音声認識と自然言語処理が可能なため、あまりパソコンに慣れていない人でも最新のAI技術を利用できるのが魅力です。ただし、Copilot+ PCとして認定されるためには次のシステム要件を満たす必要があります。
- NPUの処理能力が40TOPS以上
- メインメモリーは16GB以上
- ストレージは256GB以上のSSD
これらの要件を満たし、かつMicrosoftの認定を受けることができればCopilot+ PCを称することができます。
従来のAI PCとCopilot+ PCの違い
従来のAI PCと最新のCopilot+ PCでは、AI処理能力や機能の充実度が大きく異なります。AI PCと比べるとCopilot+ PCはAI処理能力が強化されており、さまざまなAI機能を活用できる点が特徴です。
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AI処理能力が強化されている
Copilot+ PCは、従来のAI PCよりもAI処理能力が強化されています。NPUの最適化により効率的なAI演算が行われ、音声認識のようなリアルタイムでのAIアシストがよりスムーズに機能するようになりました。さらに、AIによる画像処理も迅速に行われ、写真の編集や自動分類などを瞬時に行うことができます。Copilot+ PCを活用できれば、ビジネスやクリエイティブ活動がより便利になるでしょう。
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さまざまなAI機能を使用できる
Copilot+ PCにはさまざまなAI機能が備わっており、作業の効率化とクリエイティビティ向上に役立つツールがそろっています。各機能の詳細について一つずつ見ていきましょう。
● リコール機能
リコール機能は、過去に参照した情報や資料を瞬時に呼び出すことができる便利なツールです。過去に使用したデータやドキュメントにすばやくアクセスできるため、情報の再利用や確認が容易になります。過去の資料を再利用したい場合や、過去のプロジェクトデータを参照して同様のタスクを効率的に進めるなど、時間の節約や効率化を実現するのに役立つでしょう。
● コクリエーター
コクリエーター機能は、手描きの絵やイラストを基にしてAIが画像を生成してくれる機能です。AIがユーザーの指示にしたがってコンテンツを生成してくれるため、ユーザーが一から手作業で制作するよりも短時間で質の高いデザインをいくつも生成することができます。
● ライブ キャプション
ライブ キャプションは、音声をリアルタイムで文字に変換する機能です。会議や講義の内容を即座に字幕として表示することができ、聞き逃しや記録の取りこぼしを防ぐことができます。また、リアルタイムの情報共有も可能なため、リモート会議中で使用すれば会議の内容をテキストとして即座に参加者全員で共有することもできます。正確な情報共有と作業の効率化に役立つでしょう。
● Windows スタジオ エフェクト
Windows スタジオ エフェクトは、ビデオ通話やオンライン会議で映像のクオリティを向上させるAI機能です。背景をぼかしたり参加者の目線を自動で修正してくれたりと、映像表現を向上させよりプロフェッショナルな印象を与えることができます。また、周囲の雑音や生活音を自動的にカットすることもできるため、これまでよりも気軽にオンラインミーティングに参加することができるでしょう。
● リスタイル イメージ
リスタイル イメージは、画像のスタイルや外観を簡単に変更できるAIツールです。例えば、普通の写真を一瞬で水彩画風に変えたり、ポップアートのような鮮やかな色合いにリスタイルすることができます。既存の画像を複数のスタイルに変換し、まったく異なる表現に仕上げることができるため、短時間で質の高いデザインを制作するのに役立つでしょう。
Core Ultra搭載のAI PCの問題点
Core Ultra搭載のAI PCは、2024年の新技術として注目されていますが、現時点ではまだいくつかの課題も残っています。将来的な改良や新しい機種やアプリの登場に期待しつつ、現時点での問題点について確認しておきましょう。
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2024年10月時点では
Copilot+ PCに認定されていないCore Ultraは高性能なSoCですが、2024年10月時点ではCore Ultraを搭載したパソコンでCopilot+ PCとしての認定を受けているモデルはありません。2024年9月にIntelが発表した開発コードネーム「Lunar Lake」のCore Ultraであれば、Copilot+ PCのシステム要件であるNPU性能が40TOPS以上という項目は満たしているのですが、Copilot+ PCとして認定を受けられるのは2024年11月以降の見込みとなっています。
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まだ実用的でないAI機能も多い
Core Ultraを搭載したAI PCで使用できるAI機能には、現時点ではまだ実用性が高くないものも多く含まれています。日本語に対応していないものや、AIがアシストできる作業の範囲が限定的であるなど、期待されたパフォーマンスに届いていない部分があるのが現状です。今後のAI機能の発展により多くの実用的な活用場面が増えることが期待されますが、現状ではまだそのポテンシャルを発揮しきれていません。
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同じ価格ならゲーミングPCの方が
処理能力が高い可能性もAI PCは高性能なプロセッサーを持つものの、同価格帯のゲーミングPCと比較すると処理能力が劣る可能性があります。特に、ゲームや処理の重いタスクではゲーミングPCが圧倒的なパフォーマンスを発揮するケースが多いです。AI機能に魅力を感じておらず、純粋にパフォーマンスを重視するユーザーにとっては、現時点ではAI PCよりもゲーミングPCの方がコスパ面で優れていると感じるかもしれません。
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今後コスパに優れた機種が発売される可能性がある
AI PCはまだ登場したばかりなので、今後コスパに優れた機種が増えてくる可能性が高いでしょう。AI技術が進化してAI PCの普及が進めば、多くのメーカーが競争力のある価格設定でパソコンを提供するようになります。最新のAI機能をすぐに使ってみたい人以外は、選択肢が増え、性能と価格のバランスが取れたコスパに優れたモデルが登場するのを待っても良いかもしれません。
Core Ultra搭載のおすすめノートパソコン
IntelのCore Ultraプロセッサーを搭載したパソコンの中から、おすすめの製品を3点紹介します。
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Lenovo IdeaPad Pro 5i Gen 9
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ThinkPad X1 Carbon Gen 12
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Lenovo Yoga Pro 7i Gen 9
まとめ
AI PCはNPUを搭載することによって、迅速かつ低消費電力でAI処理を行うことができます。Intelは2023年12月にNPUを搭載したプロセッサーであるCore Ultra(Meteor Lake)を発表し、AI PCの登場によって何が変わるのかと人々の注目を集めました。現時点ではまだAI機能を完全に実用化するのは難しい面はありますが、2024年9月にはハイエンドとなるLunar Lakeが発表されたこともあり、今後活用場面が増加することが期待されています。